古典力学→電磁気学→解析力学→熱力学→統計力学→量子力学→物性物理学→場の量子論
大学物理を独学する順番
この記事では, 大学物理を独学する上で最も効率よく学習を進められる順番と, 各分野で初学者にオススメの教科書を紹介します。
①古典力学
オススメの教科書:考える力学 第2版 (兵頭俊夫, 学術図書出版社, 2021)
古典力学は全ての分野の基礎となる最重要分野と言っても過言ではありません。
特に, 調和振動子は統計力学1や量子力学, 場の理論を理解する上でも重要なモデルなので, 力学の段階で計算方法や特徴をしっかり把握しておきましょう。
上記に挙げた本を難しく感じた場合は, 0冊目として微積で解いて得する物理(細川貴英, オーム社, 2017)を読むのがオススメ。
高校生の時に読んだ本で, 自分の物理観にコペルニクス的展開を起こすきっかけになった1冊です。
②電磁気学
オススメの教科書:マクスウェル方程式から始める 電磁気学 (小宮山進, 竹川敦, 裳華房, 2015)
電磁気学の教え方には, 帰納的に議論を進めていく流派と演繹的に議論を進めていく流派があります。
各論から始まって最後にマクスウェル方程式に辿り着く帰納的な議論のスタイルは, 高校物理と同じ道筋を辿るため一見するとわかりやすいと感じるかもしれませんが, マクスウェル方程式の理解を深めるためにもう一周する必要があります。
対して, 先にマクスウェル方程式を示して物理的内容を確認していく演繹的な議論のスタイルでは, 早い段階でベクトル解析の基礎事項をマクスウェル方程式の積分系・微分系2を通して学び, その流れで各論に話が展開されていくため, 論理が明解なのがメリットです。
電磁気学のオススメ教科書(執筆中)
③解析力学
オススメの教科書:独学する「解析力学」(近藤龍一, ベレ出版, 2021)
解析力学はNewton力学を一般化したものとも言えるので, Newton力学の学習を通して, 煩雑な計算を一通り経験しておくと動機づけになります。
運動方程式を極座標表示に直す際にテクニカルな計算をせずとも, 機械的に求められるのを手を動かして確かめ, 解析力学の魅力の一端に触れてみましょう。
特に, この本は表紙にもあるように「数式を端折らず、最後まで丁寧に解説」してくれる本なので, 初学者でも安心して読み進めることができます。
また, 電磁気学のあとに解析力学を学ぶことで, マクスウェル方程式を最小作用の原理から導かれることを確認することができるという狙いもあります。
より発展的な内容を学びたい方は最近の本ですが, 解析力学: 基礎の基礎から発展的なトピックまで (渡辺 悠樹, 共立出版, 2024)がとても良かったです。
解析力学のオススメ教科書(執筆中)
④熱力学
オススメの教科書:
熱力学: 現代的な視点から (田崎晴明, 培風館, 2000)
物理の基礎分野の中でも随一の普遍性を持つ, 抽象度が高い分野。
等温過程と断熱過程からヘルムホルツの自由エネルギーとエネルギーをそれぞれ定義し, エントロピーを自然な形で定義するので, 初学者にとっても論理が明解です。
有名な本として, 清水熱力学(通称)と呼称される熱力学の基礎 第2版 (清水明, 東京大学出版会, 2021)もかなり評判が良いですが, 1冊目に読むのはオススメできません3。
熱力学のオススメ教科書(執筆中)
⑤統計力学
オススメの教科書①:
統計力学 Ⅰ (田崎晴明, 培風館, 2008)
オススメの教科書②:
統計力学 Ⅱ (田崎晴明, 培風館, 2008)
1巻でミクロカノニカル分布, カノニカル分布とその応用例である格子比熱, 黒体輻射, 2巻ではグランドカノニカル分布とその応用例であるフェルミ粒子/ボース粒子, 相転移の話が扱われています。
有名な本として, 通称:清水統計と呼称される統計力学の基礎 I (清水明, 東京大学出版会, 2024)もかなり評判が良いですが, 1冊目に読むのはオススメできません4。
統計力学のオススメ教科書(執筆中)
⑥量子力学
オススメの教科書: 初学の編集者がわかるまで書き直した 基礎から鍛える量子力学 基本の数理から現実の物理まで一歩一歩(松浦壮, 日本能率協会マネジメントセンター, 2024)
かつて, これほどまでに初学者への配慮と内容の充実を両立させた本はあったでしょうか。
物理学科の学生はもちろん, 意欲ある中高生や非物理学科で量子力学を勉強しなければならない化学科の人にもお薦めできる一冊です。
0冊目に読むなら, 12歳の少年が書いた 量子力学の教科書(近藤龍一, ベレ出版, 2017)も量子力学の雰囲気が掴める良い本です。
(解析力学の段落で紹介した本と同じ作者で, 内容を噛み砕いて説明するのがとても上手)
より発展的な内容を学ぶのであれば, 量子論の基礎: その本質のやさしい理解のために (清水明, サイエンス社, 2004)は絶対に手元においておきましょう。
今後の学習において, 理解が曖昧な部分が出てきた際に必ず参照する心強い味方になります。
量子力学のオススメ教科書(執筆中)
⑦物性物理学
オススメの教科書:一歩進んだ理解を目指す物性物理学講義(加藤岳生, サイエンス社, 2022)
物性物理学のオススメ教科書(執筆中)
⑧場の量子論
オススメの教科書①:
場の量子論: 不変性と自由場を中心にして (坂本眞人, 裳華房, 2014)
オススメの教科書②:
場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(坂本眞人, 裳華房, 2020)
場の量子論のオススメ教科書(執筆中)
補足・注釈
補足
・特殊相対論は電磁気学, 一般相対論は解析力学のあとに学ぶと見通しが良いです。
・解析力学と熱力学は古典論・量子論を問わず, 適用範囲がとても広い分野。できるだけ早い段階で一通り学んでおくのと必要になったときに適宜学び直すことでスムーズに本流に戻れます。
・流体力学は古典力学の後であれば, どこでも大丈夫な気だと思います。
・もっと発展的な内容を勉強するときにオススメの教科書も教えて欲しいという方は, 以下の記事を参照してください。
大学物理のオススメ教科書(執筆中)
大学物理のオススメ演習書(執筆中)
注釈
- 黒体輻射で扱う。調和振動子ポテンシャルを用いて, ジュレディンガー方程式よりエネルギー固有値を求めると, プランクの輻射公式に一致する。 ↩︎
- マクスウェル方程式は積分形が物理的内容を素直に翻訳した表式になっている。微分形はベクトル解析の知識を用いて積分形を変形することで得られる。 ↩︎
- エントロピーの定義を公理として, 熱力学の理論を三重点でも破綻しない形でまとめられている。しかし, 熱力学を学ばないことにはその有り難みは分からない。学部4年〜大学院生くらいで読むレベルだと思う。 ↩︎
- この教科書は量子力学に対する深い理解が前提になっているので, 初学者には厳しいと思われる。 ↩︎